くぼ苺農園 園主
愛知県愛西市
くぼ苺農園 園主
愛知県愛西市
会社員時代
愛知県愛西市でいちご農園を営んでいる久保さん。
建設会社の会社員を経て、いちご農家に転じたきっかけと想いをお聞きしました。
ー農業との出会いはいつ頃だったのでしょうか?
「祖父が九州の福岡で農業を営んでおりまして、毎年そちらに行った際に農業体験をしていました。その点では幼少の頃から農業に馴染みはありましたね。」
ー農業方面の勉強もされていたのですか?
「いえ。私は元々理数系だったこともあり、工業系の大学に進学して土木を学んでいました。学生時代は大学祭の実行委員会に所属して、人格の形成に励んでいましたよ。就職については、当時F1ブームだったこともあり、道路やサーキットを作ってみたいという思いから、道路建設会社に入社しました。」
ー車やレーサーではなく、道路への憧れだったのですね!?
「はい。すぐに北陸支店に配属となり、地元の会社に出向もしながら現場や管理の仕事のキャリアを積んでいきました。小さな仕事から大きな仕事まで関わりましたが、どれも”地図に残る仕事"ということでやりがいがありましたね。」
喪失の記憶
ーその後も道路建設会社の社員を続けていかれたのでしょうか?
「30代半ばを過ぎると、周囲の期待も大きくなり、成果も出し続けなければいけないストレスなどから過食症となり、体重も100kgを超えていました。そこから体を壊してしまい、退職して地元の愛知県に戻ってきました。38歳にして全てを失いましたね。」
ー今のお姿からは想像もつかないですね。
「体を壊してから食事制限をしなければならなくなり、改めて食べる事の大切さを知りました。元々食べることが好きだったのですが、それができなくなった時に生きる気力がなくなっていったのです。『自分から食べ物をとったら、何も残らない。』と感じ、食べ物とトコトン付き合ってみようと決心したのです。」
ー具体的に何をされていったのでしょうか?
「まずは栄養士になろうと考えて、女子栄養大学の通信教育講座を2年位かけて学び、栄養士同等の知識を有するという免状をいただきました。その学びの時間の中で『農業だったら会社員時代に培った土木の経験も活かせるのではないか?』と思ったのが就農のきっかけです。」
ー土木の仕事と農業が繋がるのですね!?
「はい。道路や工場の外溝に街路樹を植えたり、結婚式場の小さな庭を"森"に変えたりしたこともあるのです。その経験からか、植物に対する知識も0ではなかったんですよ。その頃はアルバイトをしながら、植物医の通信教育で本格的に勉強をしていましたね。」
研修生時代
ー実際の栽培については、どう学ばれたのですか?
「いざ研修先を探すと中々見つからなくて苦労しました。新規就農者を支援する施策や法律もたくさんあるのですが、使われていないものも多くて…。そんな中、近所の『はしもと園芸』といういちご農家さんが研修生の募集をしていたのです。私は40歳を超えていましたが、師匠に雇っていただけて本当に嬉しかったです。」
ーそこで何年くらい研修されたのですか?
「約2年半ほど働きながら学びました。元々いちごが大好きでいつか栽培したいと思っていたのですが、まずは路地野菜からスタートする予定でした。ところが師匠は、"いちごしか栽培したことがない"と仰る。『農家も減ってきているし、居抜きで借りれるハウスもあるかもしれない。夢もかなうかもしれないよ。やってみるか!?』という言葉は今でも覚えています。」
ーまさにご縁ですね!
「研修生をしながら独立を見据えて土地を探していましたが、中々貸してもらえる土地が見つかりませんでした。ところがある日、草が森のように茂っている耕作放棄地の中にハウスが建っているのを見つけたのです。師匠に相談したら、『雑草は久保くんが刈れるし、お金を借りてハウスを建てるより、こちらのほうが成功する確率は高いかもしれん。やってみるか!?』と。」
ー二度目のやってみるか!?ですね。
「その言葉に背中を押され、1年半かけて耕作放棄地の草を刈りあげ、整備も終えた平成28年8月に事業登録をしました。」
ー1年半の草刈りですか!?想像を絶する覚悟ですね...。
今後のビジョン
ー現在の取り組みや今後のビジョンを教えてください。
「美味しい農産物を作るには健全な根が大切だと考えています。そのため、根に空気を送る装置を導入し、土中に酸素を届けています。そうすると、根っこが成長し、”美味しいものをつかまえる”ことができるのです。また、水も井戸水ではなく、ミネラル豊富な木曽川の水をパイプラインを通して使用しています。」
ー最近、国際認証も取得されたのですね。
「はい。グローバルGAPという、世界基準の農業認証を取得しました。この認証は、農業における、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を実践する優良企業に与えられる世界共通のブランドなのです。」
ーすごいですね。何故取得されたのですか?
「私も後継者がいる訳ではないですし、自分が農業をできなくなると、また耕作放棄地になってしまいます。そうならないように、事業として仕組みを作りたいですし、そのための指針が必要だと考えて取得しました。また、せっかく国際基準を取得したので、将来的には世界を視野に入れた商品開発をしてみたいですね。」
ー素晴らしいビジョンですね!最後に、新規就農者にメッセージをお願いします。
「まずはどれだけ自分が続けられるかを考えることですかね。いくら理想があっても続けられなかったら意味がないので、まずは続けられることを選択してほしいです。そして、やはり夢をあきらめないことですね!」
ハウスを見学すると、会社員時代の経験を活かしたスマート農業の仕組みが導入されていました。道路建設会社での経験から就農までの苦労、そして復活の道へ。くぼ苺農園さんのいちごには、まさに久保代表の人生が凝縮されているのです。